土葬について
現在、日本の人口は15年連続で減り続け、2050年には1億人を切るといわれています。その一方で過去最高数を記録しているのは在留外国人の数です。少子高齢化が進み労働を担う若者が確保しづらい日本において、在留外国人は労働層としても期待されています。
ありがたい一方で、文化や風習の違いに起因した軋轢やトラブルが日本各地で起きています。
その中の一つに、イスラム教徒(ムスリム)による土葬墓地をめぐる問題があります。
日本では、亡くなった人のほとんどが火葬されます。火葬を行ってお墓を建てることが多いので火葬が一般的な埋葬方法と感じる方も多いでしょう。
しかし世界的に見ると、イスラム教やキリスト教の一部など、「火葬」を禁忌とする戒律を持つ文化は少なくなく、現代でも土葬を行っている国は多くあります。
世界の様々な葬法には「死後の世界」「輪廻転生」といった宗教や死生観が関わってきています。
ここで言う、イスラム教では教義上、死後の「復活」のために身体が必要であるため、亡くなった後の速やかな土葬が必須とされます。また、死者の霊魂には意識や感覚もあるとされており、万一火葬されると、復活ができないだけでなく、地獄の業火で焼かれるような痛みをもたらすとされます。こうした理由から、イスラム教徒にとっては土葬以外の埋葬方法を選択する余地はないのですが、現代日本は火葬率99%を超える世界一の火葬大国であり、土葬を実現することへのハードルは高いと言えます。
これまで日本にも、時代によって衛生管理上や宗教上の問題で火葬が尊重されたり、土葬が尊重されたりするなどさまざまな経緯がありました。
1950年代まで日本の火葬率は約50%で、農村部を中心に土葬の風習も残っていました。しかし、現在の日本は世界有数の火葬大国ともいえる状況で、一般的な人ならば「土葬」が葬送の選択肢として頭に浮かぶことはないでしょう。(現在も日本の一部地域では土葬を行うことができます。)
海外では土葬が主流の国もありますが、日本で土葬が難しいのには特有の理由があります。ここからは、日本で土葬が難しい理由を解説します。
土葬は、ご遺体を火葬せずに土に埋めて埋葬する方法です。埋葬方法はご遺体を棺に入れてから土に埋める方法と、棺を使わずにそのまま埋める方法の2種類があります。土葬する際には、動物によって掘り起こされることがないよう、2m程度の穴を掘らなくてはなりません。また土葬した場所は地面が陥没しやすいため、墓石の置き直しや盛り土などのメンテナンスが必要になります。
日本では、狭い国土面積の中に多くの人が居住しています。火葬して遺骨を埋葬する場合と異なり、土葬をするとなると埋葬するのに大きなスペースが必要です。特に、人口が集中している首都圏などの都市地域においては、埋葬場所を確保するのが困難でしょう。
埋葬されたご遺体はいずれ土に還りますが、腐敗の影響が及んで地下水が汚染され、感染症を引き起こすリスクがあります。 衛生上の問題が発生しやすいのは、土葬の大きなデメリットといえるでしょう。 なお、適切な防腐処理(エンバーミング)を行えば、感染症を防止できます。
現在でも土葬は法的に禁じられているわけではなく、「墓地、埋葬等に関する法律」で火葬と同等に扱われています。そのため、自治体から埋葬を許可されたことを証明する「埋葬許可証」を提出すれば、土葬を行うことが可能です。
しかし、土地や衛生上の問題から土葬ができる地域は限られています。都市部では、自治体の条例によって土葬を禁止している地域も少なくありません。
限られた国土や公衆衛生を理由に火葬を進めてきた日本の背景をもってすると、土葬墓地を新たに開くことには住民の抵抗が大きく、仮にその用地を確保できたとしても、腐敗の進んでいく遺体をそのまま埋葬するという土葬のイメージは、公衆衛生という物質的な「汚れ」だけでなく、心理的な死の「穢れ」をも呼び起こすことになるかもしれません。むろん住民の反対運動の中で前面に主張されるのは、前者の公衆衛生であることが多いが、実際の住民感情にはより直感的な心理的忌避感も含まれていることでしょう。
しかし、いまや日本に住むイスラム教徒は34万人にも達すると言われ、移民人口の増加とともに土葬・墓不足は深刻な問題となっています。
全国で土葬可能な墓地はわずか10ヵ所ほど……。そのため、各地で「闇土葬」とも言える違法埋葬が発生し、深刻化しつつあるのです。
イスラム教徒からしても、日本で埋葬できないからといって母国に遺体を送るのは金銭的な理由もあり難しいことでしょう。このまま土葬場所についての議論を放置していては、闇土葬がますます横行するのは想像に難しくありません。
一方で、日本社会には火葬を前提とした制度や慣習があり、土地や衛生面、地域住民の理解といった現実的な課題も存在します。
土葬への不安や戸惑いの多くは、宗教そのものへの拒否というより、「これまで経験したことのない埋葬の形」に対するものかもしれません。
火葬が伝染病のリスクを減らすなどの衛生的なメリットに加え、遺骨が灰になり小さくなるため、土地の限られた日本においての埋葬方法として非常に合理的であることに加え、文化・習慣として定着した制度を見直すことへの不安…。
これは宗教の問題であると同時に、日本社会が多様性とどう向き合うかを問う出来事でもあるといえます。
賛成とか反対、郷に入っては郷に従え、という簡単な話ではありません。埋葬法は土葬を禁止していないのです。
土葬を認めるか否かは、簡単に答えの出る問題ではないでしょう。しかし、「違う文化だから排除する」という態度もまた、答えではないはずです。
誰かの死をどう扱うかは、その社会がどれほど他者を尊重できるかを映し出す。
イスラム教徒の土葬問題は、特定の宗教だけの話ではなく、異なる文化や価値観を持つ人々が共に暮らす中で、社会の仕組みをどこまで柔軟にできるのか。それは、これからの日本が向き合っていく課題の一つでもあります。
かずやコスメディア 上原